国民民主党から年収103万円の壁を178万円に引き上げる政策案が提出され、政府は実現すると税収減はなんと7〜8兆円にもなると試算しています。
さらに106万円と130万円の壁も取り払うべきだという案が厚労省からあり、それらに対する政府の財源や企業の支出はどうするのだという議論がされています。
しかし、これら年収の壁は本当に理解されているのでしょうか?
1.年収103万円の壁とは
年収103万円の壁は大きな誤解があるようです。
誤解の1つは、主婦がパートで働き年収として103万円を越えると扶養者である夫に配偶者控除(38万円、70歳以上なら48万円)がなくなって、世帯当たりの収入が減ってしまうというものです。
これは税制が変わり2018年からは、配偶者特別控除が拡張されて、配偶者の年収が150万円まで控除額38万円は変わりません(扶養者の年収1,095万円以下の場合)。
そして、150万円を越えると201万円まで徐々に控除額が減っていく仕組みです。
もう1つの誤解が、年収103万円を越えると税金が発生して手取りを大きく減らされてしまうというものです。
たしかに年収103万円を超えると超えた分に所得税がかかりますが、年収が195万円までなら税率は5%です。
仮に2万円オーバーして働いたとしても、所得税として引かれるのは1,000円(2万円×5%)です。
また年収103万円の壁には、大学生など(19歳以上23歳未満)がアルバイトをして年収103万円を超えると、その扶養者(親など)は特定扶養控除63万円を受けられなくなるという制約があります。
これについては早々と取り除くことに決めたようです。
2. 年収106万円と130万円の壁とは
年収106万円と130万円の壁とは、年収がこれらを超えると配偶者の扶養からはずれ、社会保険料を払わなければなりません。
つまり、厚生年金保険料と健康保険料(40歳以上では介護保険料も)を払うことになります。
年収106万円と130万円の壁の違いは、働いている企業の規模によります。
以下に扶養をはずれる要件を列挙します。
①週20時間以上勤務
②企業規模50人以下の法人(年収130万円以上)、企業規模51人以上の法人(年収106万円以上、正確には月収88,000円以上)
来年の春には法改正で企業規模の51人以上という枠を取り払って、週20時間以上働く年収106万円以上の勤労者は対象者になる見通しです。
2024年度の最低賃金は全国平均で1,055円、東京都では1,163円です。
週20時間働いたとすると1か月あたり全国平均で1,055円×20時間×4週間=84,400円(年収換算では約101万円)、東京都で1,165円×20時間×4週間=93,200円(年収換算では約112万円)になります。
今後、毎年最低賃金が上昇すると、週20時間以上働くほとんどの人は社会保険料を払う必要がでてきます。
月給10万円(年収120万円)で40歳未満の勤労者が会社から天引きされる社会保険料は、厚生年金と健康保険を合わせると毎月約6,900円、年間では約83,000円にもなります。
これは企業にとっても大きな負担です。なぜならば厚生年金や健康保険料は労使折半と言って、従業員とその企業が同額ずつ払う仕組みなっているからです。
従業員50人以下の中小企業では「従業員の社会保険料の支払が増えて利益があがらない」と、パート従業員などに勤務時間を減らすように要求するところが出てくるでしょう。
年収103万円の壁が取り払われたとしても、扶養からはずれる年収106万円あるいは週20時間勤務が新たな壁となりそうです。
3. 年収100万円の壁の議論は後回し
後回しにされて議論されていないのが年収100万円の壁です。
年収100万円を超えると個人住民税がかかります。
個人住民税の税率は住民税の所得当たり一律10%(所得割)、その他に共通にかかる均等割(標準税率4,000円)が課税される場合があります。
所得税の最低税率5%と比べると決して少なくありません。
これが仮に年収178万円まで課税されないとなると、都道府県や市区町村などの各自治体に入る税収が大きく減収することから、とても受け入れられそうにありません。
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