生前贈与の法規制が改正されたので注意
- ファイナンシャルプランナー村川賢
- 5 日前
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夫(被相続人)が亡くなったときに妻や子(相続人)がその遺産を譲り受けて、遺産の評価額が基礎控除(3,000万円+法定相続人の数×600万円)を超えていれば相続税を納税しなければなりません。
被相続人が亡くなってから10か月後までに遺産分割協議を終えて、相続人はそれぞれ該当する相続税を基本的に現金で納税することになっています。
もし遺産分割協議が終わっていなくても法定相続分で分割したとして納税しなければなりません。
被相続人はなるべく相続税の負担をかけないようにと事前に相続税対策を行いますが、そのなかでも生前贈与について、最近になって相続法規が変わったので説明します。

1.生前贈与による持ち戻し期間が3年から7年へ
生前贈与でよく使われる手段が暦年贈与です。
贈与では1年間(1月1日から12月31まで)で基礎控除の110万円までは贈与税がかかりません(受贈者側で1年間に合計110万円までの贈与なら非課税)。
仮に10年間毎年110万円ずつ子に贈与すれば、贈与税なしで1,100万円の資産を子に移譲することができます。
しかし、持ち戻し制度というのがあって、亡くなる前に贈与した資産は一定期間分を原則すべて相続財産に加えなければなりません。
この期間が23年末までは3年間であったのが24年1月以降では7年間に延長されました(毎年段階的に施行)。
ただし、相続開始が27年1月1日以降であれば、延長された4年間については合計100万円まで加算対象外とすることができます。
暦年贈与は手続きが必要ないのでお手軽な相続税対策とも言えますが、税務調査であからさまな相続税対策として連年贈与とみなされ贈与税がかかったり、持ち戻し制度で減らしたつもりの相続財産が結局減らなかったなどといった問題点があります。

2.使いやすくなった相続時精算課税制度
相続時精算課税制度とは、相続時(贈与者が亡くなったとき)にそれまで贈与した財産を相続財産に加えて清算する制度です。
この制度の採用を申告してからは2,500万円までの贈与なら贈与税がかからなず、2,500万円を越えた分については一律20%の贈与税ですみます。
60歳以上の父母や祖父母から18歳以上の子や孫への贈与が対象です。
ただし、一度この制度を採用してからは暦年課税に戻すことはできません。
従来では少額でも全て贈与した分は毎年申告し、相続が発生したら全て相続財産に加えて清算しなけばならず面倒なうえ、メリットが余りありませんでした。
ところが23年税制改正により、24年1月からは1年間で110万円までなら申告の必要もなく、さらに1年間110万円までなら持ち戻しの必要もなくなりました。
これは大きなメリットです。今後はこの制度を採用する人が増えるのではないかと思われます。
相続時精算課税制度を採用するにあたっては、いくつかの注意すべき点があります。これらの注意点を簡単にまとめました。
① 有価証券などその資産価値が変動するとき、贈与したときの評価額が相続時の財産価格として清算します。
もし自社株など将来資産価値が上がりそうなら、早くのうちに贈与することで相続税対策になります。逆に資産価値が下がるものを贈与すると、相続税の税負担が増えます。
② 子や孫がまとまった資金(事業資金や海外留学資金など)を必要とするとき、父母や祖父母はこの制度を採用することで税率の高い贈与税を払わずに贈与することができます。
また父母、祖父母はそれぞれ別々に暦年贈与と相続時精算課税制度を採用できます。
③ 小規模宅地等の特例が使えません。居住用の宅地をこの制度で贈与した場合、相続時に小規模宅地等の特例が使えないため、評価額の減額措置が受けられず税負担が増えることがあります。
④ 1年間110万円までは申告不要ですが、これを超えた場合は必ず申告が必要です。申告を怠ると一律20%の贈与税がかかる恐れがあります。
⑤ 孫へ贈与した場合は、相続時に代襲相続を除き相続税が2割加算されます。
3.まとめ
相続税対策としては、生きているうちに自分の財産の一部もしくは全部を相続人に贈与する「生前贈与」が最もポピュラーな対策です。
生前贈与を行うには暦年課税制度または相続時精算課税制度を使うのが一般的ですが、最近になってそれぞれ制度が変わりました。
どちらが良いかはそれぞれのメリットとデメリットを十分に把握して採用することが大切です。
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